6.都市の文化

 ロ-マの町中では自然の中で出あったような人とのふれあいはめったにない。いやロ-マに限らず、現代の都市生活では世界中どこも同じであろう。声を掛けたり掛けられたりする度に相手の下心をつい疑ったりもする。都市では他人を必要としない。便利な設備・施設がある。生活に必要なシステム
が揃っている。衣・食・住の問題も病気になっても一応心配ない。そこでは一人でも何不自由なく生きることができる。都市では他の人間の助けがなくともシステムが助けてくれる。金さえあれば更に快適に生きる事もできる。  
  
 人が他人に依存せずに生きる事ができるような社会では、人が助け合って生きてきた共存社会とは異なった社会規範・習慣・モラルが必然的に成立しよう。人々は義務としての過去の道徳・因習にとらわれず権利としての個人の自由の幅をだんだん拡げて行くことになる。  
 これに加え、都市での経済的ストックの増加やインフラが増えてゆけば、個人個人の価値観人生観・趣味趣向・生活指向・等々が多様化し社会的バラツキが大きくなる。こうなると前に述べたイタリア社会の典型に近づいて、人は社会生活では義務の意識より自己の権利を優先するし、他人は人生観・価値観が違う人すなわち自分と種類が違う人であり信頼・信用よりも、嫌悪や不信の対象であることが普通になってくる。都市生活の中では人が助け合いを必要としない分、人を信用しないようだ。これが現代の都市文化の特徴の一部ではなかろうか。  
  
 だが都市化におけるこの現象は、一旦はじまるともう止まるはなく加速的に進んでゆく。人類社会の構造がそのようになっているようだ。  
 そして今、私達の文明全体が全てその方向に向かっているようだ。やがては地方の生活も都市のそれに近づいてゆくようだ。なにはともあれ生活が便利になることはいいことだし、それが幸福な生活というものだ。世界中の全ての人々はそんな幸福な生活を望んでいる。  
  
 ところで国外にいると、このところの日本の経済の躍進ぶりのすざましさがよく分かる。東京はじめ大都市の機能が急速に拡大・整備されてゆく様は少なくともヨ-ロッパでは例を見ない。「ロ-マは一日にして成らず」と言われたが「東京は一日にして成る」の観がある。  
  
 人間が生活や活動する環境は急激に変化しても何事も問題は起きないのだろうか?自然界では過去の生物の歴史上、急激な環境変化に適応・追従できず淘汰・絶滅してしまった「種」もずいぶんいるようだ。人間は生活・活動する環境を自ら変えてゆく。中でも現在その環境の変化速度が一番速い地域は日本らしい。  
  
 東京の変化がなぜ速いのか・・・、その変化の行く先は一体なにか・・・  
といった疑問を解く鍵も、そこに住む人間の特性やその人間達の内なる文化等との関わりがあるのかも知れない。