3.イタリアの京都弁

 日本語や英語に方言があるのと同様に、イタリア語にも方言がある。オ-ストリ-との隣接地域は日常会話はそっくりドイツ語だったり、アオスタのスイス・フランス語圏に隣接した地域ではイタリア語とフランス語をミックスしたような言葉を喋っている。またイタリアの中央部・南部を問わず各地方にはそれぞれの方言がある。中にはとてもイタリア語とは思われぬ方言もあり、とりわけ老人にそんな言葉で話しかけられでもすれば大変な思いをする事になる。  
  

 イタリアは日本の明治維新とほぼ同じ頃に統一された。それ以前は日本と同様にいくつかのクニに分かれており、また歴史的にも多くの民族が入り混じっているはずなので、この辺りの事情は理解できる。  
 もう一つ興味があるのは、同じマトモなイタリア語でも地域により発音やイントネ-ション、アクセントに違いが大きい点である。私が喋っているイタリア語はどうやらロ-マ訛りらしく、ミラノやトリノ等の北の地方に行くと、よくロ-マ訛りのジャポネ-ゼ(日本人)と言われたものだ。逆に見れば北の方が訛りが大きいのかも知れない。北部イタリアでも東よりのベネチュア周辺(ベネト地方)のイントネ-ションは、特に気になる。  
  
 この抑揚の激しいイントネ-ションはまるで京都弁だ。女性が喋ると耳にやさしくそれなりにいいのだが、男性にスロ-・テンポで抑揚つけて喋られると、なぜか妙にイライラしてくる。  
 これは自分の生まれた国や地方の言語や習慣に起因しているのではないかと思われる。私は北九州でも俗に「川筋」と呼ばれる気性も言葉も直線的な地方で生まれ育った。野鳥のヒナと同じように人も幼い時にインプリンティングされた環境・文化に一生支配され、それとは異なる文化に接した時には
生理的な拒絶反応を示すものらしい。  
 例え大切なビジネスの場であっても、妙にナヨナヨしいヤサ男に例のベネト弁でくどくどと問い詰められたりすると、ついに「ジャカ-シ-!ナヨナヨ野郎!」と怒鳴ってしまう。「ナヨナヨしいとは、マロのことかえ?」  
「そ-だ!マロ-!テメ-のことだ-!エエィッ、寄るなア-!」・・・・  
 ロ-マ弁にはなぜか、自分が生まれた土地・九州の直進性と気性の荒さがあるようだ。