3. Do it by Yourself

 ロ-マの生活を快適にするための知恵はドロボ-対策だけではない。多分、ロ-マ人の中にできるだけとけ込んで彼等の生活の方法を知って、その中で異邦人である自分に合ったやり方をするのがよろしい。  
  
 生活のうち、衣・食については店に行って買い物さえすれば、なんとか我慢できる。だが住は、ガマンすればなんとか出来るというモノではない。例えば水漏れで床が水浸しになったとか、電気が止まったとか、洗濯機が故障とか、子供が怪我したとか、ドアが壊れたとか・・・生活できないのである。  
 日本ではめったに起こらないこんな出来事がここでは日常茶飯事に起こるから困ったものだ。  
 日本からの派遣者で、こんな事にいちいち会社の秘書を通してやってもらっている人もいる。だけど只でも効率が悪いここの社会でそんなやり方していたら、どんな些細なことでも一日がかりの仕事になってしまう。それに休日だったらどうする。そんな訳でココでは何事も自分でやるのが一番いい。  
 まず、コレは特別の出来事か?普通のイタリア人はそんな時どうするのか?  
といった事から理解しなければならない。自分でやるとしても何しろバラツキの大きな社会だ。何がこの世の実状か分からないからだ。  
 その場合、言うまでもなく言葉、イタリア語を話せる事は大前提だ。でなければロ-マでの普通の生活が分らない。英語を話す人はここの社会でも偏りのある一部の人達であるから、そんな人達とだけ話していてもロ-マ社会の全体像は分からない。生活の周りの人達との交流が大切だ。  
  
 イロイロやっているうちに生活関連の人脈も出来てくるし、ここでの駆け引きのやり方も分かってくる。また不思議なもので、一目見て・一口話して相手がどんな人かも分かってくる。日本にいた時と同じだ。最初の頃、若い女性を見ればどんな顔でも美人に見えていたが、美人とそうでない人のケジ
メがつけられるようになってきた。イタリア人と一口に言っても歴史的に民族が混じり合い多種多様の顔だちがある。その中で利口な顔とそうでない顔、正直・マジメ 者の顔とそうでない者の顔が見えてくるから不思議である。  
 マジメな人でも、力の限界さえ分かってくる。「あ、この人ではこの故障直せない。」 例えば、水洗トイレの故障や湯沸器の故障、何度やっても人を変えても、また直ぐ故障してしまう。 こうなれば、何事も自分でやるのが一番いい。彼等がやっている事だから自分にやれない事もなかろう。という、一番手っとり早い選択をする気になってきた。  
 おかげで少々の故障なら、ガスも水もトイレもシェランダ(シャッタ-式鎧戸)も電器も、自分で直せるようになってきた。とはいえ生活用品の様式も電気器具・部品の方式や規格も、日本に較べバリエ-ションが大きく多種多様である。同じ家庭の配電も220Vと110Vがあったりするし、ネジ一つとっても規格がまちまちである。これでは自分で何事かするにしても又、イライラする事もあるし、大ケガさえあり得る。だから、先ずはここの社会のそんな部分の勉強も少しはしなければならない。  
  
 ’Do it by Yourself’ は、ロ-マ生活の最大の知恵の一つだった。以来、イライラする事も少なくなったしムダ金を使うことも減った。それに、もしかしてロ-マで便利屋くらいは開業できるかも知れない。  
  
 とはいっても車や大型の電気製品の故障、壁や床の中の水漏れ等はそうはいかない。こんな専門業者に委ねる仕事でも出来るだけ立ち会う事にした。  
’なんで、こんな故障が起こるの?’ ’どうして、そうするの?’と言った疑問は、この国の技術や品質管理のレベルを知る意味で、はては文化や考え方の違いを知る意味で仕事の上でも大いに参考になる。なにしろこの国については何でも知っておかねば、何でも確かめておかねば・・・・。  
  
 異郷で暮らしをマトモにするならば、’Do more than Romans do ! ‘の気を持って、そのベ-スとして彼等がやってる事は何でもやってみる ‘Do it by Yourself ‘の気持ちが大切なようだ。