第Ⅱ章:民族の平均値と分散(バラツキ) 1.世界一アホな民族

 日本のある週刊誌が「世界で一番アホな民族はどこか?」というアンケ-トを大学生を対象にとったことがある。広報誌がこんな企画をやれば日本の文化レベルや民度が察せられそうで日本人としては恥ずかしい限りである。  
 不運なことにその結果、「世界一アホな民族」はイタリア人ということになった。さらに不運な事は、その記事を日本駐在のあるイタリア人記者が目にとめ本国に送り、イタリア国内で大反響を引き起こしたことである。「日本人は自分達のことをバカだと考えている」。たまたま他に大きな話題も事件も無かった時期であったこともあり新聞各紙、週刊誌が一斉に報道したため、日本人と見るやいたるところで問われた。この件で駐在員など家族・子供も含めイタリア在住の日本人が大変な迷惑を被ったのはいうまでもない。  
 アンケ-トに答えた大学生達によると「イタリア人が世界一アホ」である理由は、イイカゲンでナマケモノ、カッコだけで中身ナシ、女たらしで大食いの節操無し・・・etc.と言うことらしい。確かにイタリア人のある一面をそれなりに把えているようにも思える。  
 この時期、私たちはあるイタリアの国営系企業に数十人規模の技術協力ミッションを派遣していたが、彼等のうち少なからずの者もこれに近い印象をイタリア人に対して持っていたのではないかと思う。日本人が誠心誠意、技術を指導しているのに、なかなかうまくいかない。やれる条件を全て揃えてやっても、言った通りになかなかやれない。何度も何度も繰り返している内に「コイツ等、もしかしたらアホとちゃうか・・・?」と密かに思っていた者がいたとしても不自然ではない。  
  
 この報道に対するイタリア各紙の反応も沢山出てきたが、それらを要約するとこうだ。「日本人は確かに今や、GNP世界一、技術力でも経済力でも世界をリ-ドしているかも知れない。そしてその故に自分達が世界一優れ、有能で金持ちだと思っているかも知れない。だが勤勉に昼も夜も働き続ける彼等は小さな家にすみバカンスもない。豊かさや幸福の意味が判っているのだろうか? カッコも悪いがもしかして中身もないのではないのとちゃうか・・・? 何事にも節操よく集団をなしてはいるが、あの民族は自分の人生が自分のためにあるという事など自分で考えたことあるのカネ・・・? どちらがアホかと問われれば、失礼ながらあちらの民族の生き方のほうが私達にはよほどアホに見えるのだが・・・」  
 こう把えられれば、恥ずかしながら確かに日本人のある一面をそれなりに言い当てられているようにも思える。  
  
 こんなバカバカしい議論を大人がそういつまでも続けられるものではない。2、3週間マスコミをわかし続けたこんな調子の日本論・日本人論もやがて自然流会になった。だが私の気持ちの中では本件はまだ決着がついてはいない。この件には深い背景なり真理なりがありそうだ。