ストック型社会への転換

   ~次世代システム研究会の考え方~

ストック型社会の概念図


    ●長寿命型社会資本の世代間蓄積(ゆとりの蓄積)
●資源自立圏形成と次世代の資源的(国家)安全保障
●持続可能な人間社会と地球環境

   「ストック型社会」とは、先ず①社会資本・個人資産を長寿命型にし、モノとしての資産の世代間蓄積を図る社会です。その結果、国や地方自治体の財政や国民の生涯収支に「ゆとり」が生まれ豊かな社会になります。さらに②後世代の生涯資源消費量が小さくなり、国・地域における資源的自立も可能になります。③これによって持続的な社会繁栄と地球環境保全を両立できる社会になります。

   戦後の日本の経済成長は、これとは逆のフロー型社会を形成してきました。現在の日本社会が直面している重要課題の多くは、このフロー型社会システムに根源があるようです。例えば日本の賃金は、世界トップの位置にありフランスの2倍、中国の30倍です。一方で生活コストは、フランスは日本の1/2です。経済学で言う購買力平価は同じでも、両者の間には長寿命型のストック(社会資本・個人資産)を保有しているかどうかの違いがあります。家屋だけでなく多くの公共資産やその他の個人資産の寿命<耐用年数>を何世代も使えるフランスや他の先進国に比べ、日本はそれらの寿命が極端に短く毎世代更新しなければなりません。そのことが経済的にも資源的・地球環境的にも世代あたりの負担を大きくしています。

   世代を超えた資産を保有しているか否は、国民の生活経済から文化まで国民の生活レベルを決定付けることになります。長寿命型ストックが有る国では、生涯収支に「ゆとり」があるので、その「ゆとり」の部分がバカンスになったり文化投資になり、国民が豊かな人生を享受できているのです。一人当たりGDPや賃金が日本よりはるかに低いフランスやイタリアの人々の生活や文化が、私達より遥かに豊かである理由は、ここにあります。この構造は、国や地方自治体の世代収支でみても同じです。国も自治体も長寿命型社会資本を蓄積し、「ゆとり」が生まれた分は、経済や国際環境の変動に対するバッファー効果になったり、文化投資に当てられます。

   経済がグローバル化した現在、日本の高コストが国際競争力を著しく低下させています。その主因は世界トップレベルの高賃金に在ることは、産業連関のコスト集積過程から明白です。従って日本の産業経済の健全化には、日本の高賃金問題の解決が必要です。日本人の生活レベルを維持しつつ、賃金のレベルをフランスやイタリア並に健全化するには、日本をストック型社会に転換するのが妥当でしょう。そうなれば日本の国内産業も、国際競争の中で持続的に存続できます。

   資源量が大きな建築物・構築物・各種インフラ等を世代毎に造り変える分、私達は大量の資源消費とCO2放出を繰り返していくことになります。地球環境問題も目先の目標だけでなく世代を超えた長視点でみれば、劇的な解決ができます。例えば日本のエネルギーの約50%は素材や土木建設などの産業分野で消費されます。仮に日本のモノの寿命をヨーロッパ並みに4~7倍に変えれば、後の世代の産業分野のエネルギー消費量を1/4~1/7にできることを意味します。森林資源をはじめ生物資源についても長寿命化した分、その保全が可能になります。

     将来に目を向けると経済活力の低下が危惧される少子化の日本ですが、日本国土の生物学的ヒト収容能力は7千万程度と推測されています。同様に地球の持続的収容力は多くの計算で35億人~50億人と言われる中で、世界人口は既に65億人になり今後も指数的に増加し、2050年には90億人を超えます。そのような経過の中では、エネルギー・食料をはじめ多くの資源が不足し、国家間の争奪が激しくなるのは必至です。広い視点で世界を俯瞰し長い視点で一世代後の時代を見れば、日本がとるべき政策は人口を増加させることではなく、社会資本を長寿命型にし資産蓄積と資源自立圏を構築するストック型社会への転換政策です。

   一方、豊かな国の資金は投資先を求めて世界を駆け巡っています。日本の資金も同様に、中国をはじめ世界の発展途上国に投資されています。例えば賃金が日本の1/30の中国では、人件費効率が日本の30倍の速度で資産形成が図られています。他方、日本国内では長寿命型に向けた資産再形成の必要があるわけです。つまり国内に世代を経ても価値が劣化しないという魅力的な投資先を設計すれば、日本の賃金で日本の資産を形成することができるのです。急速に変化する世界情勢の中で次世代社会に向けた「ストック型社会への転換」というこの政策、つまり北海道から沖縄まで国土の再形成に早急に着手する必要があるのです。その過程は国内全体に景気の浮揚と雇用の創出を産み出します。その究極の目的は、国民を豊かにし・経済構造を健全化し・資源的自立と地球環境の持続的保全に在るのです。

   日本をストック型社会に転換するための技術や製品は、既に日本の国内や地域にも存在しています。ここに紹介された企業はその代表的な事例です。